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展覧会 · 2025

新しい体験の潮流、嗅覚アート──香りはどう物語るのか

掲載日
言語
日本語
読了時間
5分
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2025年1月16日に掲載されたベトナム語の原文からの翻訳です。

その後:

  • 「来る2月、ハノイへ届ける」という一文は2025年初めに書かれたもの。ハノイでの展覧会『Light and Shadow』は2025年2月に開催された。
帽子にヘッドホン姿の人が目を閉じ、糸のカーテンのあいだでガラス球の香りを嗅ぐ。ピンクの光に包まれた香りの展覧会

もっとも純粋なかたちの芸術は、つねに感情を呼び覚まし、人と深く結びつくことをめざしている。たゆみなく歩みつづける芸術の世界で、ジャンルも様式も、それぞれのやり方で人の心に触れてきた。嗅覚アートは新しい体感の場として、記憶と感情、そしてその奥行きをたどり直す旅である。香りがことばとなり、深い感情と、まだ語られていない物語へと私たちをつなぐ。嗅覚アートがひらくのは、そうした新しい世界だ。

嗅覚アートとは

嗅覚アートは、香水の瓶を並べて見せるだけのものではない。感情と記憶のあいだをそぞろ歩くことであり、香りのひとすじごとに導かれて内なる世界へ入り、自分自身の奥深くと、これまで語られることのなかった物語に触れていく。嗅覚アートでは香りが主な表現の手段となり、嗅覚が体験の「中心」になる。

ベトナムでの嗅覚アートの活動

嗅覚アートがベトナムに現れるより前から、嗅覚アートの展覧会や催しは世界各地、とりわけヨーロッパとアジアで開かれてきた。そうした催しは、香りを展示するだけの場ではない。音楽や光、ほかの芸術の要素と香りを組み合わせて心を動かす物語をつくりだす体験の場であり、そこには参加するひとりひとりの個人的な思いと深い感情が映しだされる。ベトナムでも、嗅覚アートの展覧会や香りの調合をめぐるセミナーといった小さな催しが、多くの人の関心を集めてきた。これはベトナムの嗅覚アートの発展にとって喜ばしい兆しであり、もっとも見過ごされがちな感覚を通して芸術を知り、味わう新しい場がひらかれつつある。

ショートヘアの女性が目を閉じ、紐で吊られたガラス球の香りを嗅ぐ。展覧会での嗅覚アートの体験
ショートヘアの女性が目を閉じ、紐で吊られたガラス球の香りを嗅ぐ。展覧会での嗅覚アートの体験

嗅覚アートはなぜ人の心をとらえるのか

嗅覚アートの大きな特徴のひとつは、受け手を内面の深いところへと導く力にある。香りは手段であると同時にことばでもあり、まだ口にされていない物語を語り、表にあらわれていない感情を読み解き、それぞれの内にある自分自身とのつながりを呼び戻す。香りの展覧会はどれも、自分を見つめなおす旅だ。訪れる人はただ「見る」だけでなく、「感じ」「嗅ぎ」、作品のなかに「溶けこみ」、たゆたう香りのひとすじひとすじに自分の姿を見いだす。

香りの展覧会で、「やさしさの力」と記された吊り下げカードのそばに置かれた毛糸玉の香りを嗅ぐ来場者
香りの展覧会で、「やさしさの力」と記された吊り下げカードのそばに置かれた毛糸玉の香りを嗅ぐ来場者

香りのアーティスト Rei Nguyen が手がける、感情の旅

嗅覚アートがベトナムで少しずつ地歩を固めるなか、香りのアーティストであり、ニッチフレグランスブランド R Parfums の創設者でもある Rei Nguyen は、なかでもひときわ目を引く名となり、忘れがたい足跡を残してきた。嗅覚アートを人びとの身近なものにした先駆者であるだけでなく、日本で香りの展覧会を成功させた初めてのベトナム人として、国際的にもその名を刻んでいる。Rei Nguyen の歩みは、香りをめぐるさまざまな体験の場をつくることから始まり、そこで嗅覚をほかの芸術のかたちと巧みに結びつけていった。R Parfums のニッチフレグランスが見せる繊細な香りの層を、最高級ウイスキー Royal Salute とともに味わう「Perfume & Whisky」。香りと最上の料理が溶けあう「Perfume & Fine Dining」では、Regent Phú Quốc のレストラン Oku とともに「Olfactory Omakase」を開き、フーコック島の魅惑的な美しさに着想を得た香りと繊細な料理を組み合わせて、ひときわ印象深い嗅覚の旅を届けた。さらに「Perfume & Flower」では嗅覚アートを花と自然の世界へひろげ、香りと花が結びつくことで、新しい感情の層をひらいてみせた。こうした催しが、より大きな規模の嗅覚アートへの足がかりとなった。Rei Nguyen の最初の展覧会『Pluviophile(雨を愛する人)』は、忘れがたい転機となった。神秘的な空間と、香りのノートひとつひとつを通して語られる物語によって、雨にまつわる詩的な感情を描きだすだけでなく、アーティストと鑑賞者のあいだに深い対話をひらいた。その成功を受けた二度目の展覧会『Letters from 221B Baker Street: Scents of Shadow』は、シャーロック・ホームズの推理小説に着想を得た謎めいた空間をサイゴンにつくりあげた。それぞれの香りが闇と光の物語を、善と悪のあいだで揺れる心の葛藤を語り、訪れた人に深く、多面的な感情を残した。サイゴンでの成功を経て、Rei Nguyen はこの個展『Letters from 221B Baker Street: Scents of Shadow』を、来る2月、『Light and Shadow』というまったく新しい名でハノイへ届ける。独自の嗅覚アートの空間を首都で披露するのはこれが初めてで、アートを愛する人びとにとっては、香りを通して光と闇が情感豊かに溶けあうさまにふれる機会となる。小さな催しから大規模な展覧会まで、Rei Nguyen は嗅覚アートの境界を広げつづけ、その歩みのひとつひとつを、魅惑に満ちた感情の冒険へと変えてきた。

嗅覚アートの展覧会で、灰色の金属メッシュのインスタレーションの中央に置かれた小さなオブジェに鼻を寄せる鑑賞者ヘッドホンをつけた女性が青い球の香りを嗅ぐ。手には円い模様を刻んだ透明な皿、背後には紫とピンクの光を受けた糸のカーテン香りの催しで、生花を飾った石のテーブルに並ぶスポイト付きの茶色いガラス瓶をのぞきこむふたり香りを味わう会で、ガラスのグラスと花を並べた長いテーブルのそばに立ち、ムエットの香りを嗅ぐ女性香りと料理を組み合わせた催しで、レストランの長い石のカウンターのそばに立ち、ムエットを手にする Rei Nguyen
嗅覚アートの展覧会で、灰色の金属メッシュのインスタレーションの中央に置かれた小さなオブジェに鼻を寄せる鑑賞者 · ヘッドホンをつけた女性が青い球の香りを嗅ぐ。手には円い模様を刻んだ透明な皿、背後には紫とピンクの光を受けた糸のカーテン · 香りの催しで、生花を飾った石のテーブルに並ぶスポイト付きの茶色いガラス瓶をのぞきこむふたり · 香りを味わう会で、ガラスのグラスと花を並べた長いテーブルのそばに立ち、ムエットの香りを嗅ぐ女性 · 香りと料理を組み合わせた催しで、レストランの長い石のカウンターのそばに立ち、ムエットを手にする Rei Nguyen

むすびに

騒がしく慌ただしい現代の世界で、嗅覚アートはひとときの静けさをもたらし、香りを通して自分自身の声に耳を澄ませる場となる。それは一時の流行にとどまらず、感情とつながりの新しい地平をひらく、大きな可能性を秘めた芸術のかたちでもある。嗅覚アートにふれることは、自分を知り、記憶と感情とともに満ち足りて生き、目に見えないと思われていたものの奥にひそむ美しさを見いだす旅である。

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